2007-06-01から1ヶ月間の記事一覧

:4.赤い牡丹

重々しい鉄の扉を開けると、室内では、事務員らしき女性と、パンチパーマにダブルのスーツを着た、まるでヤクザ映画の端役みたいな風貌の男のひとがひとり、待ち構えていました。 まちがえました。――なんて言って、そのまま扉を閉めて、帰ってしまうこともで…

:3.決心

いまから六年ほど前、わたしは、短大を卒業したばかりでしたが、希望に満ちた新社会人生活に胸を躍らせていたわけではなく、これから先の人生に一抹の不安をいだきながらも、目先の生活で手一杯な、そんな日々を送っていました。 仕事は、していました。 就…

:2.淡々とした決意

「わかりました」と、婦人がしっかりと、言った。「お話します。どうか、こんなわたしの話を、聞いてください」 わたしは、婦人の顔を見た。そこには、自棄になったような勢いや捨て鉢さなどはなく、ただ、淡々とした決意が、あるように思えた。 はい、と、…

:1.はじまり

わたしには、ずっと、わすれられないひとが、いるんです。 何年も、何年もずっと。 たぶん、これから先もずっと。 ええ。そう、ですね。いままでのわたしは、あえて、わすれずにいることを選択してきたのかもしれません。ほんとうのところ、まるで呪縛のよう…

ひとは、わすれるがために、記憶していくのか。記憶するがために、わすれていくのか。